運動器検診の背景:現代の子供の運動器の問題
現代の子どもの運動器の問題は、スポーツのオーバーユースなどの運動過多によって生じる外傷や障害と、運動不足による体の硬さやバランス能力の低下の二極化が特徴です。
運動過多によって生じる関節の軟骨障害や、腰椎の疲労骨折から生じる分離症などは、適切な時期に治療しなければ将来に禍根を残すこととなりますが、適切に治療すれば大事に至りません。運動不足によって生じる体の変化や生活習慣は、将来メタボリックシンドロームやロコモーティブシンドロームの原因となる可能性を秘めています。これらの状態から子供の運動器を守るために、平成28年度から、学校保健安全法施行規則の一部が改正され、学校健康診断において「四肢の状態」を検査することが必須項目として加わりました。今まで、運動器の検診として側弯症の検診だけがありましたが、脊椎だけでなく、四肢の運動器の問題にも注目することにしたのです。
〈用語の解説〉 | |
運動器 | 骨・関節・筋肉・神経など、体を動かすことにかかわる器官のことです。 |
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メタボリックシンドローム | 内臓脂肪型肥満に高血糖、高血圧、脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態です。 |
ロコモーティブシンドローム | 運動器の傷害のために移動機能の低下をきたした状態です。 |
当院では、運動器検診で指摘された項目について、検査、治療、指導等が可能です。
以下は運動器検診で注目されている身体の状態と関連疾患です。
1. 側弯症
側弯症は、その原因によって機能性側弯症と構築性側弯症に分けられます。
機能性側弯症は、姿勢の悪さや痛みを避けるために背中を曲げている状態、両脚の長さが異なることで背中が曲がるなどの状態で、その原因を取り除くあるいは修正すれば側弯が消失するものです。
構築性側弯症は、症候性と特発性、先天性に分けられます。症候性には、神経・筋疾患由来のものや脊髄空洞症といった特殊な病気が原因でおこるもので、原因が明らかなものです。明らかな原因が分かっていないのが特発性側弯症で、学校の運動器検診で問題となるのもこの側弯症です。特発性側弯症は、その発症時期から早期発症特発性側弯(乳幼児期、学童期)、と思春期特発性側弯症に分けられます。女児に多く、側弯の程度によっては、年々進行することが分かっています。側弯症の症状については、側弯が高度に進行するまでほとんど発症しないとされています。腰背部の痛みや肩こりを訴える症例もありますが、これまでの報告では一般と差がないとされています。しかし、側弯が進めばヘルニアや脊椎のすべりといった腰背部の痛み、下肢のしびれや痛みの原因となる疾患が生じやすくなる可能性は否定できません。さらに側弯が高度になると胸郭に変形を来し息切れなどの呼吸器症状の原因となります。しかし、実際には、呼吸器症状が出るまで側弯が放置されることは稀です。側弯の進行は成長の程度に相関し、成長が止まるとその進行も小さくなります。先天性側弯症は、生まれつき脊椎に変形(奇形椎)があるものです。成人した後に椎間板や脊椎骨の損傷をきっかけに背骨が曲がってくるものは成人期の側弯症と呼ばれます。
診断には、診察とX線写真が必要です。詳細な身体所見を取り神経学的な問題があるときには、脊髄の状態を確認するためにMRIが必要なこともあります。学童期側弯では症候性側弯症に注意します。
治療は、装具療法、手術療法があります。運動療法も行われることがありますが、その治療効果について十分なエビデンスがありません。しかし運動は積極的に行っても構いません。側弯が進行しで側弯角(cobb角)が増せば、まず装具療法が適応となります(図2)。どんどん身長が伸びている時期は側弯も進行しますので、成長が止まるまで装具を装着します。側弯の程度がさらに強くなり40度を超えると成長終了後でもさらに進行しますので、手術療法をお勧めしています(図3)。側弯症の治療上で最も注意すべきは患者の心理的ストレスです。特発性側弯は若い女性に多く発生しますので、精神的なサポートは重要です。インターネット上、側彎に対する民間療法の宣伝を多く認めますが、まずは整形外科にご相談ください。
図1 | 図2 | 図3 |
軽度の側弯;姿勢不良 | Cobb角25度 装具治療開始例 |
Cobb角40度超 手術治療紹介例 |
当院では、保存療法まで行いますが、手術治療が必要な患者さんには適切な病院にご紹介いたします。
2. 運動過多によって生じる運動器傷害
運動過多(オーバーユース)によって生じる代表的な運動器傷害は、脊椎では腰椎分離症、上肢ではリトルリーグショルダー(肩の骨端線離開)、野球肘(上腕骨小頭離断性骨軟骨炎)、肘頭の疲労骨折、下肢では、膝に生じるオスグッドシュラッター病、シーバー病などの骨端症のほか、下腿の過労性骨膜炎、下腿の疲労骨折などがあります。
当院では精査のほか、リハビリテーションを中心とした保存療法を行います。
手術療法が必要な場合は、適切な医療機関に御紹介いたします。
野球肘 (上腕骨小頭離断性骨軟骨炎) |
肘の内側部障害 | 脛骨疲労骨折 (縄跳び) |
腰椎分離症 | オスグッドシュラッター病 |
3. 運動ができない。(運動器や他の臓器に原因がある可能性あり)
運動ができない子の中には、本人も気が付かない運動器の疾患があることがあります。肩甲骨の位置異常が特徴のスプレンゲル変形、股関節の脱臼や、股関節の骨端症であるペルテス病、大腿骨頭すべり症などの疾患が隠れていることがあります。
運動器以外の臓器に問題があって運動ができないこともあります。循環器や呼吸器に障害がある場合もそうですし、発達性協調運動障害があると空間認識能力やバランス力低下、集中力低下などによって運動が不得意となります。これらの疾患でも早期診断が大切です。
当院では運動器の精査のほか、運動器疾患があればリハビリテーションを中心とした保存療法を行います。手術療法が必要な場合は、適切な医療機関に御紹介いたします。
4.運動不足によって、体が硬いあるいはバランス能力が低下している。
最近子供たちの運動能力に異常が生じています。雑巾がけをかけることができない、和式トイレに入ることができない、転倒しやすい、転倒すると受け身が取れずに簡単に大きな怪我をしてしまう、鉄棒にぶら下がれない、など挙げればきりがありません。これらの異常は子供たちの運動不足が原因とされています。走り回れる遊び場の減少と、ゲーム機器の普及によって、子供たちは体を十分に動かす機会が減っているのです。成長期に十分な運動をすれば、バランス力や筋力、柔軟性、受け身などの危険回避能力を獲得できるほか、良い姿勢を維持するための身体能力も形成されます。
体が硬い子や、バランス力が低下している子を早く見つけ、適切なストレッチや運動の機会を与え継続させることは、結局は、将来の日本社会の健康、活力にもつながる大切な作業と考えます。
当院では、ストレッチの指導や歩行指導、トレーニング方法の指導をいたします。
体が硬い | バランスが取りづらい |
東馬込 しば整形外科
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